白いスニーカー

父の夢をみた。
父と手を繋いで歩く夢。
私達は川沿いを歩いていて、濁った川にはイルカが泳いでいた。
物心ついてから父と手を繋いで歩いた記憶なんて、ない。



祖母の事を思い出した。
祖母と初めて手を繋いで歩いたときの事を。
それも、物心ついてから、という事だけれど。
祖母は亡くなる5年くらい前、庭掃除をしていて転んだ。
よぼよぼの見かけに寄らず健脚な人だったけれど、それ以来
すっかり足腰が弱ってしまった。

ある年のお正月、宮崎の鵜戸神宮へ初詣に行った私達は
いつものように駐車場から伸びる海沿いの参道を歩いていた。
祖母の歩みは遅く、ちょこんと押せば倒れてしまうような
弱い生き物になってしまった気がした。
私は祖母のハンドバックを持ってやり
少し照れくさい気もしたけれど祖母の手を取った。
祖母は嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をして
「こんなばあちゃんと手を繋ぐのなんて恥ずかしいでしょう。」
と言った。

それからは祖母とよく手を繋ぐようになった。
祖母の手は私と良く似ていた。
私よりも幾分か女らしい形をしていたけれど。


先月、妹の結婚式で、父の衰えをひしひしと感じた。
父は母よりも一回り年上で、年が明ければすぐに70歳になる。
昔は家族みんなで向かっていってもとうてい太刀打ちできない
頑固でたくましい「九州男児」を絵に描いたような人だったけれど
時間は過ぎ、父はすっかりおじいちゃんになっていた。

移動のときも、ただ皆の後をついて来る。
スーツに不釣り合いの白いスニーカーを履いている。
大きな荷物も持てず、所在無さげにしている。

父は教師だった。
母が祖父から譲り受けた会社の代表を勤め
自分でいくつかの会社も立ち上げたりもした。
あまり上手くいったとは言えないけれど
何処に出ても(一見)堂々としていて恥ずかしくはなかった。

親族紹介で父は、兄嫁の名前を忘れた。
甥と姪の名前も飛ばした。
あまり美味しくもない料理にしきりに感心し
椅子から立ち上がる時にはよろけていた。

ここ数年、初詣に行っても父は参道を歩く事はない。
もうたった数百メートルを歩く事ができないのだ。

桜木町の駅でゆっくりと小さく歩幅を刻んでいた
父の白いスニーカーを思い出し
父の手を取って歩く日も近いのだろうと思った。




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by oyabing2002 | 2011-12-23 23:33 | 日々
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思う事、好きなもの、旅の記録。
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2012年4月に
フランスワーホリから戻りました。

趣味はサッカー観戦
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